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コラム

第45回岸田國士戯曲賞選評(2001年)


陰のあたる場所

選考作品を読みながら私が取るメモを見ると、三谷氏の『オケピ!』は、「上手い」「巧い」のコトバで目白押しだ。
『オケピ!』に限らず、三谷氏が持ち出してくる「場所」はいつでも「うまい所を思いついたなあ」と唸らされる。思いつきそうで、思いつかないところを持ってくるのが実にうまい。『オケピ!』に限っていえば、その場所はバックステージものでありながら、単純な楽屋裏でもなく舞台袖でもない。舞台と横並びにある場所ではない。舞台と上下関係にある舞台下である。しかもそれは、奈落でもない。舞台の裏ではないのだ。表にありながら下にあるという実に微妙な場所だ。こういう所を選んでくるのが心憎いくらい巧いのである。
そして、三谷氏が選んだ場所は、彼の作品に流れる風や臭いを決定づける。『オケピ!』で言えば、その表でありながら下であるという「場所」は、明るいけれども陰のあるところとでも言えば良いのだろうか、「陽のあたる場所」ではなく「陰のあたる場所」だ。そこには人間の失意があるが、けしてそれは陰湿に挫けていくようなものではなく、人々はいつも上を向いて生きている。だが、どんなに頑張っても、その場所に当たるものは上にいる者の陰でしかない。うーん、実にいい場所を思いついたもんだ、ったく、唸っちまうぜえ、となったわけである。
三谷氏の作品は、「花見」と呼んでよいかも知れない。その「場所」選びが成功のかなりのウェイトを占めている。ただ、花見の場所選びは暇とその暇を費やす愚かさがあれば誰でもできるが、芝居の方は、閃きと並はずれた観察力がなければ、三谷作品ほどの場所選びは出来るものではない。
私が三谷氏の作品に「うまい」と唸るのは、なにも「場所選び」だけではない。その一つに過ぎない。セリフのことなども書き出したらきりがない。この選評のスペースに、三谷氏のうまさを語り尽くすだけの「場所」がない。それだけのことである。