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コラム

第53回岸田國士戯曲賞選評(2009年)


アウェイへ行って闘って来い!

今年は、九本の候補作があった。すべてが、「家族」「人間関係」「愛情」でくくられる作品だった。この傾向が、「今」を象徴しているのであれば、面白いことなのだが、寧ろ、何も象徴していないかのように思える。だから、読んでいてもわくわくしない。そこで書かれているものは、その作品に登場する人間たちの間だけの人間関係である。外側と言うものがない。世界というのは、内と外でできているものだろうに、書かれているのは、内側のことばかりである。外側が想像されることもない。崩壊しようとしている外側でもいい。幻想の外側でもいい。とにかく何も書かれていない。たまに書かれていてもありきたりで、関心がもたれていない。これは、人間関係という芝居の根幹のようなものを書いていながら、実は、その関係を作っている共同体と言うものに無関心であるからだ。無関心でない場合は、その共同体の造型がただの借り物であったりするからだ。「人間関係の危機」を描く以前に、「内側の人間関係」をしか書けなくなっていることが危機であろう。ホームで試合をしてばかりいるひ弱なサッカー選手のようである。アウェイへ行って闘って来い、と言いたくなる。昔なら、「偶には外へ出て走って来い!」の一言で片付いたのかもしれないが、今は作家が集団で「家」に引き籠っているような現状だ。その中で、今年は、蓬莱竜太氏の『まほろば』。これは、実によくできた昔のテレビのホームドラマのようであった。皮肉ではなく、なかなかこうも上手くは書けない。甘いけれども上手いのである。この上手さに舌を巻いたので推した。本谷有希子氏の『幸せ最高ありがとうマジで!』は、作品賞というよりも作家激励賞である。本谷氏の「人間の良心を笑う」悪意と「真実の暴言を吐く」作為は、紛れもない才能である。だがまだ三分咲きだ。というか、幹が見えない。これを契機に、その卓越した才能を更に開花させ、もっと素晴らしい大木を生み出して欲しい。