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第43回岸田國士戯曲賞選評(1999年)
『赤鬼』
「人間は、自分に近いものを食べれば食べるほど、不健康になる」
昔からよく言われてきた名言である。
すなわち、植物より人間に近い動物を食べる方が不健康である。同じ動物でも、魚よりも人間に近い哺乳類の牛、豚を食べる方が、さらに不健康だ。そして、人間が人間を食うことがもっとも不健康だ。そういうことになる。
まことにもっともである。まことしやかな名言である。だが、こんな名言はない。
わたしが今作った。
コトバというのは、まことに恐ろしい。まことしやかに語り継がれるだけで、マリリンモンローもプリンセスダイアナも殺されたことになっているし、アポロ11号などは近頃は月に行ってないことになっている。
四十年前には、血液型など、輸血する際の知識に過ぎなかったものが、昨今、この日本では、人間の性格から運命まで決める重要な要素だということになっている。この四十年間、日本の飲み屋界隈で語り継がれてきたおかげである。今日、血液型信仰を疑う人はいない。占いと同じで、自己暗示にかかっているだけじゃないの?などと、口が曲がってもいえない。私にとって、血液型による人間判断でもっとも確実なことは、「飲み屋で血液型のことを喋っている人間は話題の乏しい人々だ」ということである。
実はわれわれは、かなりのことがわかっていない。だが、語り継がれることで、いろんなことを知った気になっている。そして、判断する。愛したり疎んだり憧れたり蔑んだりして、挙句の果てに諍いなどを始めたりもする。
近頃は、この語り継がれる速度が異常に早くなっている。インターネットや携帯電話のおかげだ。時間をかけて検証せぬまま、発せられた言葉が独り歩きする。面白そうなコトバであればあるほど、独り歩きする。さしずめ今であれば、小和田雅子さんの病状についての言葉などが、独り歩きしてそうだ。だが、実は誰も何も知らないのだ。そう思うと、ぞっとすることは、ありませんか?と、ちょっと聞いてみたい。つい最近も、独り歩きした言葉のおかげで、大きな戦争がおきた。そして、いっぱいの人が死んだ。ごめん、あの言葉、違ってたみたい。いまさらそう言われても、死んだ人間は困る。困るを通り越している。死んでいるんだから。
言葉は、人間が理解しあうためのものである、と同時に、人間を誤解させるものである。この『赤鬼』という作品は、そうした思いからできている。
そして、まことしやかに語り継いでいるのである。「人間は自分に近いものを食べれば食べるほど不健康になる」と。












